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エル・システマ フェスティバル2017 / 『エル・システマ ガラコンサート』

1,5,6:FESJ/2017/Mihoko Nakagawa 2~4,9,10:FESJ/2017/Sara Watanabe 7,8:FESJ/2017/Mariko Tagashira

『エル・システマ ガラコンサート』が10月22日、池袋の東京芸術劇場にて開催されました。日本の子どもとベネズエラのエル・システマの若者を中心とした音楽家たちによる心のこもった歌や演奏に会場から万雷の拍手が送られ、公演は大盛況に終わりました。

声、手、顔、体、楽器…それぞれの表現で音楽を一緒に

第1部のトップを飾ったのは、「相馬子どもオーケストラ」の子どもたち57人。福島県相馬市からバスで前日に移動してリハーサルに参加し、本番に古橋富士雄先生の指揮で臨みました。「お菓子の歌」では、わた菓子、チューインガム、ソフトクリームなど、子どもにとって身近なお菓子にまつわるエピソードを、ラッキィ池田さんと彩木映利さんのユニークな振付で愛嬌たっぷりに歌いました。続いて、コロンえりかさんと「被爆のマリアに捧げる賛歌」を透明感あふれる歌声で合唱。

そして、今回がデビューとなる「東京ホワイトハンドコーラス」が登場。はじめてのステージ、しかもメンバーの最年少は5歳とあり、保護者の方たちも含め関係者はドキドキしていましたが、みんな堂々としたものです。「相馬子どもコーラス」の

FESJ/2017/Koichiro Kitashita

子どもたちが歌う「紅葉」、「雪」、「五つのこどもうた」と一緒に、ひとつひとつ歌詞を噛みくだいて創作した手歌を、顔と手と体の動きで豊かに表現しました。

第2部は、本場ベネズエラのホワイトハンドコーラスと「ララ・ソモス」によるパフォーマンス。白い手袋をはめた滑らかで美しい手の動き、やさしい歌声、クアトロやマラカスといったラテンアメリカの楽器が心地よいハーモニーを織りなし、ベネズエラのそよ風が吹きぬけていくようでした。最後に披露された「上を向いて歩こう」は、「涙がこぼれないように・・・」という日本語の歌詞が聞こえてくると、ふと涙がこみあげてきそうになるほど温かい歌声で会場を包みました。

フィナーレは、5歳の子どもから70歳を超えた大人まで出演者全員による「アヴェ・ヴェルム・コルプス」と「アルマ・ジャネーラ」。「アヴェ・ヴェルム・コルプス」は十字架にかかったキリストを歌った讃美歌ですが、今回はラテン語のコーラス、ラテン語の歌詞をスペイン語に訳しさらに手歌にしたホワイトハンドコーラス、そして、オーケストラの演奏という異なる音と表現のピースが複雑に絡みあってこそ完成する特別なバージョンでした。ラテン語の神聖な響き、繊細な弦楽器の音色、白い手が表現する十字架。音楽家も聴衆も、音と動きの糸で織られてゆく1枚のタペストリーにそれぞれの感覚を研ぎすませました。

FESJ/2017/Koichiro Kitashita

第3部は、ベネズエラのエル・システマが輩出した若きコントラバス奏者、エディクソン・ルイスさんと、エル・システマジャパンを弦楽指導ボランティアとしてサポートしてきた「フェローオーケストラ」が、井上道義さんによる指揮で共演。そのあと、「相馬子どもオーケストラ」の子どもたちがリュックサック姿でステージに登場し、「遠足」を初披露しました。遠足に出かけた子どもたちが、山の鳥たちに出会い、お弁当の鰹節ごはんや炒り卵にわくわくして、おみやげは「足のまめ」という1日の冒険物語です。こちらも子どもらしい素直な感覚と元気いっぱいの振付で観衆を大いに魅了しました。

ベネズエラの第2の国歌といわれている「アルマ・ジャネーラ」には、ベネズエラの音楽家たちのコーラスと演奏に、「東京ホワイトハンドコーラス」と「相馬子どもコーラス」の子どもたちも手歌と踊りで加わりました。ベネズエラの雄大な自然への愛と夢を歌ったこのアップテンポな曲を、コーラス、ホワイトハンドコーラス、オーケストラ、ラテンアメリカの楽器と異なる方法で、まさに境界線を超えて一緒に表現したときの喜びと興奮は客席にも振動し、会場全体が大きく沸きました。

FESJ/2017/Koichiro Kitashita

エル・システマの精神に触れて

エル・システマ誕生の地であるベネズエラ。今回の公演で来日した「ララ・ソモス」とホワイトハンドコーラスのメンバーと交流することで、子どもたちはもちろん、エル・システマの活動を日本で推進している関係者も、エル・システマの精神にじかに触れることができました。「夢を叶えようと本気で思ったら、どんな障害もありません。限界があるとしたら、それを決めてしまうのは私たち自身」と力強く語る、「ララ・ソモス」のヴォーカリスト、グスターボさん。22年前に立ちあがったエル・システマのホワイトハンドコーラスに参加して以来、ひたすら音楽を追求してきました。

視覚に障害があることをものともせず、ステージの上でも外でも生き生きとした姿が印象的でした。また障害の有無に関係なく、メンバー同士のコミュニケーションがとても滑らかで、その上に成りたつ彼らの音楽は、包摂社会を文字通り体現しているようでした。

とはいえ、そうした状況は自然発生したわけではありません。「障害といっても、同じ障害のひとはいない。社会環境、家族環境などいろいろな要素が絡み、状況は異なる。それぞれのニーズに応えられるように努めている」と、特別支援プログラム・ディレクターのメンデスさんは訴えました。エル・システマの理念をいかに現場に投影していくか、きめ細かな工夫と努力がなされているのです。

FESJ/2017/Sara Watanabe

一方、今回の公演で指揮をしてくださった井上道義さんは、「誰だって目や耳がすべて自由というわけではない。鼻は犬のようにきかないし、目だって鳥のようには見えない。いろいろな障害があることを隠せずにいられるということが、本当の自由なのだと思う。オーケストラでも、ある楽器は大きな音が出ないし、ある楽器は小さな音が出ない。みんな自由じゃない。でもそれが集まっているのが、オーケストラ。そのオーケストラで演奏することと社会で生きるということは同じ」と感想を寄せてくださいました。

FESJ/2017/Mihoko Nakagawa

自分は社会の多くのひととは違う、もしくは違うかもしれない−−−。たとえそうだとしても、それを安心してオープンにできる社会、また違うことを尊重できる社会こそ、エル・システマが目指しているものなのかもしれません。

(文:仲川美穂子 エル・システマジャパン広報官)

エル・システマ・フェスティバル2017  ”出会いから舞台まで”

(Daiki Hidaka)

ガラコンサートの演奏はyoutubeの再生リストにてご覧いただけます。

メディア掲載

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