ベネズエラレポート<最終報告>

遅ればせながら、大槌の弦楽器指導担当 山本からのベネズエラレポート第7弾、最終報告です。今回、山本がサポート役として参加したオーケストラ・セミナーは、2週間でドボルザーク交響曲第9番全楽章を始めとする曲をそれぞれ完成させ、最終日のコンサートで発表するという内容でした。その最終日のコンサートについて、長くなっておりますが、渾身の報告ですので、最後までよろしくお願いいたします!

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最終日コンサートは、下記4曲となりました。

1.マルガリテーニャ(カレーニョ)

2.チェロ協奏曲第1番(サン・サーンス)

3.交響曲第9番「新世界」(ドボルザーク)

4.フーガ・コン・パラジーリョ(ロメロ)

交響曲、協奏曲、ベネズエラ人作曲家による曲と、趣向異なる曲が選ばれています。2曲目 チェロ協奏曲のソリストは、近郊バルキシメト(ドゥダメルさん出身の町)のヌークレオ(エル・システマでは支部のことをこのように呼びます)卒業生で、モスクワ音楽院を修了したホセ・グレゴリオ・ニエトさんです。

初日コンサート同様、野外の運動場でオープンで行われました。クラシックコンサートの環境としてはあまり良いとは言えず、演奏中道路から車の音が聞こえてきます。それでも、誰かが音を立てると「しっ」と制する声が聞こえ、会場にいる観客皆が真剣に演奏に耳を澄ませていました。

ディレクトールの指揮のもと、オーケストラが一体となって演奏がうまくいった時には、一瞬の静寂の後に「わーっ」という歓声、割れんばかりの拍手とスタンディング・オベーション。子どもたちは素晴らしい音楽を皆でつくりあげたという喜び、保護者や地域の人たちの歓声を受けた喜びに笑顔が弾けています。人生の宝となるようなこのような経験を、子どもたちは幾度となくしてきているのだと思います。

セミナーが行われた2週間を振り返って、特に印象に残った現地エル・システマの特徴をご紹介します。

・国内各地から集まったディレクトール(音楽監督兼指揮)たちは、個性的かつ情熱的

練習中は沈黙によって緊張感を生み出したり、ユーモアで和ませたり、場の空気を自在に操ります。優れたストーリーテラーでもあり、彼らが曲についてや音楽をつくることについて話し始めると、惹き込まれてしまいます。お話の後、子どもたちの演奏に取り組む意識が変わっているのが感じられました。

練習の外では、気さくに積極的に子どもたちに話しかけ、愛情表現はあふれんばかりです。

コーディネーターのロベルトさんは、先生たちこそがエル・システマの基盤で、その役割は「音楽に限らない」とおっしゃっていました。技術の伝達だけではなく、より包括的に音楽教育、人間教育を行うことが求められています。先生たちは、音楽のことも音楽以外のことも常に学び続けています。一口に「情熱」と言っても、それは一過性のものではなく最善を求めて、日々試行錯誤を続けていくものだと感じました。

・エル・システマの練習は、とにかくインテンシブ

朝の9時から夜の6時までで、セミナー期間2週間のうち、1日たりともまるまる休みという日はありませんでした。セミナー期間以外でも、平日午後は毎日練習だそうです。子どもたちは流石に慣れていて、長時間取り組むのが当然、という姿勢でそのような練習に臨んでいます。ここまでの毎日のインテンシブな練習は、なかなか日本ではできるものではありませんが、このふんだんな練習からあの素晴らしい音楽が生まれるのも確かです。

・子どもたちは楽器を弾くことに誇りを持っています

以前の報告でもお伝えしたある15歳の男の子は、その目力や勢いから、ハングリー精神やバイオリンを弾くことに自信と誇り、向上心を持っているのが伝わってきました。子どもたちは、少しでも時間が空くと「自分の演奏を聴いてほしい」と個人レッスンを希望し、「上手になりたい」というピュアな向上心を持っています。

・オープンかつフリー(無償であり、型が定まっていないという両方の意味で)というのも重要な特徴の一つ

これも、以前の報告でもお伝えした通りですが、どのような境遇の人にも音楽に触れる機会が与えられています。

「エル・システマの型というのは定められておらず、むしろその型を壊すことで新しいものを生み出すことに意味がある」とロベルトさんは強調していました。トリシア・タンストールさん著の「世界でいちばん貧しくて美しいオーケストラ」にもありましたが、「存在するけれど、まだかたちになっていない」のです。そのためには、先述の先生たちのような、つくりあげていく人たちの不断の努力が必要です。

・オーケストラは、一つのコミュニティであり、大きな家族のようでもあります

10歳に満たない子どもから20代までが一緒に練習しています。10歳の子が「僕の先生だよ」と紹介してくれたのは17歳。周りの大人たちによるサポート体制も充実していて、終日保護者やスタッフが見守っています。練習外でも、ある女の子の誕生日を迎え皆で祝ったり、マンゴーコンテスト(先生たちや他の仲間たちから「美女と野獣カップル」や「大食いな人」などが選ばれ、優勝した人はマンゴーがもらえる)というお茶目なイベントが開かれたり、和気あいあいです。

・Tocar y Luchar! 「奏でよ、いざ闘わん」

上記にあげた特徴は、日本の青少年を対象とした部活動やオーケストラでも見られる特徴かもしれません。しかし、重要なのはそれが社会情勢が不安定なベネズエラで行われているということです。今回のように、海外から指導者を招いてインターナショナルセミナーを開けるような財政状況のヌークレオはごくわずかと聞きました。楽器メンテナンスの方も、1年に1度しか訪れないとのことです。

エル・システマの標語である「Tocar y Luchar(奏でよ、いざ闘わん)」のLuchar(闘う)とは、通訳をしてくれたリズによると、高み(excellence)を目指し、言い訳なしで、あらゆる困難を克服していくということだそうです。

生活は明るいことばかりではないはずですが、そんな中でオーケストラは仲間との音楽演奏を通してエネルギーを培う、オアシスのような役割を果たしているのかもしれません。

最後カラカスの空港へ向かう車の中で、ロベルトさんに「You have a big mission, you know.(君には大きな使命があるんだよ。)」という言葉を掛けられ、身が引き締まる思いでした。ロベルトさんご自身が、アカリグアのディレクトールに就任して以来、強い使命感を持って育成に取り組んで来られたのだと思います。使命感を持った指導者たちのコミットメント、献身によって、今日のエル・システマが築き上げられてきたのです。

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