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スタンリー・ドッズさん、東北を訪ねて


今年3月11日に「相馬子どもオーケストラ」がドイツへ渡り、ベートーヴェンの『運命』を有志の音楽家の方たちと演奏したとき、ベルリン・フィルのステージでタクトを振ってくださった、スタンリー・チャーミン(漢字表記:加明)・ドッズさん。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者であり、バイオリン奏者でもあります。

スタンリーさんが3月11日の演奏会を指揮するに至ったのには、「相馬子どもオーケストラ」の発足へ向けてチャリテイーコンサートを開催してくれた核戦争防止国際医師会議(IPPNW)のハウバー博士と親しい友人であるという経緯があります。ハウバー博士が「スタンリーさんこそ、東北の子どもたちとの共演をリードするにふさわしい」と白羽の矢を立て、その見立ては見事に的中。『運命』は日本とドイツを結び、子どもたちを大きく成長させてくれました。

そのスタンリーさんが今回、岩手県大槌町と福島県相馬市を訪問し、子どもたちに音楽指導をしてくださいました。また、『はなのすきなうし』の朗読会も開催(相馬市役所のHPの「トピックス」にニュース https://www.city.soma.fukushima.jp/topics.asp、YouTubeの「相馬チャンネル」で動画 https://www.youtube.com/watch?v=T4jUeZV-eOg が紹介されています)。

ドイツで相馬の子どもたちに出会い、子どもたちがどんな環境にいるのか知りたくなったという、スタンリーさん。実は、初来日は19歳のときに遡ります。日本各地を演奏旅行でまわり、そのときのあり余る感動を10ページもの手紙にしたためて家族に送ったそうです。そして現在、売れっ子の客演指揮者として、海外はもちろんのこと日本国内も飛びまわっていますが、大槌町と相馬市を訪問するのは今回が初めてです。

スタンリーさんが大槌町に入ってまず驚いたのが、建物の壁に記された浸水レベルの高さです。大槌町を襲った津波は13メートルほど。震災から5年の月日が流れ、今は一見平和な町のようですが、沿岸部では大規模なかさ上げ工事が進められています。そこはかつて住宅地でしたが、その面影はありません。高台にある城山公園から沿岸部とその向こうに見える海を一望し、震災前に撮影されたパノラマ写真と見比べると、大槌町の景色は震災で一変してしまったこと、そして復興プロセスは長い道のりであろうことが容易に想像できます。自然災害が一瞬にして奪い去った生活、そのあとに残された深い傷、そこから少しずつ立ち上がろうとしている人々。そういったものがストレートに胸に迫ってくる景色を前に、スタンリーさんはじっと無言で佇んでいました。

相馬市では、原釜地区に建立された慰霊碑と『相馬市伝承鎮魂祈念館』を訪問。潮干狩りなどの長閑な原風景とは対照をなす、震災直後の様子を生々しく伝えるパネル写真を一枚、一枚、スタンリーさんは丁寧に見てまわりました。東日本大震災の甚大な被害はドイツのメディアでも大きく取り上げられたそうですが、実際に現場に足を運んでみると、スタンリーさんがそれまで抱いていたのは「情報や数字で一括りにされたイメージ」に過ぎなかったと言います。「被災者にはひとりひとりに顔があり、経験があり、そして復興へ向かう強い意志と行動があります。不屈の精神は尊いものです。被災地へ来ると、そういったものがリアルに感じられます」と語ってくれました。

スタンリーさんは、音楽には傷ついた心を癒し、人と人とを繋ぐ力があると信じています。また、音楽は自分の内なる声を聞く手助けをしてくれるそうです。「Music has the power for good 」音楽は世のため人のためになる力を永遠に持っている、という意味です。スタンリーさんに出会い、音楽というパワフルな贈りものをもらった大槌と相馬の子どもたちが、未来へ向かって力強く羽ばたいてくれることを願っています。

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