様々なニーズを抱える子ども一人一人に寄り添える活動を目指して

アブレウ博士が43年前、ベネズエラで10人ほどの子どもと始めた音楽活動は、今や70以上の国や地域へと広がりました。「厳しい環境で生きる子どもたちに、音楽で力を」というエル・システマの理念はベースにあるものの、それぞれの活動がスタートした経緯や運営体制、資金源などは、環境によって様々です。

数日前、メキシコでエル・システマの活動を立ちあげて4年になるザビエルさんの手記が、The World Ensembleで紹介されました(http://theworldensemble.org/musica-para-la-vida-en-mejico/)。

ザビエルさんがエル・システマの力を確信したのは、本場ベネズエラのシモン・ボリバル・ユース・オーケストラの演奏をメキシコシティで聴いたとき。当時、全国紙の音楽評論家だったザビエルさんは、「(ラテンアメリカの)若者たちが、どうしてこんなに上手にヨーロッパの音楽を弾けるのか。しかも、こんな夢中に」と驚きました。

その後、故郷に戻ったザビエルさんはエル・システマを立ちあげようとします。しかし、エル・システマには、いわゆる“ハウツー”はありません。フランチャイズ契約のように、マニュアルや研修が用意されているわけではないのです。活動資金の調達から人材の確保まで、まったくゼロからの出発です。それでもザビエルさんが新しい世界に飛びだす決心をしたのは、アブレウ博士の言葉を信じたからでした。

「どんな形でもいいから始めなさい。そして目標は高く掲げること」

故郷から近郊の町へ。ザビエルさんの組織は活動の幅を少しずつ広げました。集まってくる子どもたちは貧しい家庭の出身です。父親がアメリカで不法労働をしていたり、麻薬組織に狙われやすかったりという厳しい環境ですが、みんな一生懸命。大切な楽器がすべて盗まれてしまったこともありましたが、いろいろな人に助けられながら乗り越えました。

この4年で、子どもオーケストラが4つ誕生。コーラスやバンドもできました。ザビエルさんは、まだ走りつづけています。それというのも、「目標は高く」というアブレウ博士の言葉が今も生きているからです。

こんな手記を読んでいると、よし、私たちも頑張ろう、という気持ちになります。エル・システマジャパンは小さな組織です。それでも世界とつながっているし、音楽の力に触れた子どもたちの成長に誇りを持っています。どうしたらもっと意義のある活動を子どもたちに届けられるのか、現場の指導者やコーディネーターも本部のスタッフも緊張感をもって臨んでいます。

今、私たちが優先的に大切だと考えているのは、様々なニーズを抱える子ども一人一人に寄り添えるような指導者を増やしていくことです。マニュアルがないからこそ、エル・システマの現場は創意工夫のエネルギーにあふれています。しかし、それはエル・システマの「子どもたちに生きる力を」という理念がしっかり反映された指導方法を、それぞれ異なる環境で見出すという挑戦と向きあうことでもあります。

バイオリンやチェロが活動に欠かせないように、最前線で子どもたちを指導する力は非常に重要です。子ども一人一人のニーズに、より丁寧に対応していきたいと私たちは真剣に考えています。が、一方でそういったソフトの力をサポートする資金はなかなか確保できません。

6年前に相馬ではじまったエル・システマジャパンの活動は、大槌、駒ヶ根、東京ホワイトハンドコーラスへとそれぞれユニークな形で広がりました。ここまでの道のりは順風満帆なわけではなく、「エル・システマをつくる」という創造性がくれる豊かさと挑戦の間で葛藤しています。

夢は大きく。目標は高く。メキシコのザビエルさんのように、私たちも走りつづけます。ご支援してくださる企業・個人の方々がいらっしゃいましたら、ご一報いただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

Photo: The World Ensemble

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