沢山の人たちの隣で —エル・システマスウェーデン

翻訳元記事: THE WORLD ENSEMBLE(June 27,2018)

Side by Gigantic Side by El Sistema Sweden​

By Erich Booth

著者:Erich Booth (ワールドアンサンブル発行者)

2018年 6月27日

Side by side – times two thousand.

2000人が隣り合い、助け合った5日間。

サマーキャンプの概要

「サイドバイサイド」とはスウェーデンのエーテボリ市、エーテボリ交響楽団、エル・システマスウェーデンの共催で実現したサマーキャンプのことで、夏至に至るまでの5日間で行われたこのキャンプに2000人の生徒たちが集結した。7つのオーケストラ、6つのコーラスが編成されたが、これほどまでに大規模で、大盛況なパフォーマンスはラテン・アメリカの外のエル・システマではほとんど見ることができない。

毎年開催されるこのイベントは、その規模の大きさから、また「サイドバイサイド」の理念は多くの場面で実践されていることから、全世界のエル・システマの中でもかなりユニークな存在となっている。

エル・システマスウェーデンについて

エル・システマスウェーデンはラテンアメリカを除いた地域の中では最大の規模で、30に及ぶ都市の35の拠点に展開されている。講師、リーダー、そして参加者の家族を含めると、4万人もの人々がスウェーデンのエル・システマコミュニティに関与していることになる。また、スウェーデン全土で35の音楽および芸術学校、18のプロおよびセミプロオーケストラと協力関係にある。オーケストラの中には、ドゥダメルがかつて音楽監督を務めたエーテボリ交響楽団も含まれている。ドゥダメルが音楽監督の任務にあたっていたとき、このオーケストラはスウェーデンでエル・システマを設立するための援助もしている。

本サマーキャンプの特徴 ― 出身地も、家庭環境も、音楽のレベルも異なる生徒が交流すること!​

エル・システマスウェーデンの規模が大きいことや参加する生徒の層(たいていは移民や“recent arrival“直訳は”最近到着した人たち“つまり、最近スウェーデンに流入してきた難民のことが暗示されている)が、「サイドバイサイド」の活動を進めるうえで大きな影響を与えた。このキャンプではエル・システマに通う生徒、その講師、伝統ある公立および私立の音楽学校の生徒、先生がごちゃまぜになって活動する。そこでは、「どこから来たか」「どこで音楽を習っているかは」は関係なく、音楽が好きな若者が、より音楽を好きになれるようになるための祭典という考え方が大切にされている。

「サイドバイサイド」の組織力は見事で、家庭環境、出身地、音楽を学ぶ環境が異なる実に多様な子どもたちが集中リハーサルの中で交流できた。すべてのオーケストラとコーラスのリハーサルにおいて、楽しみながら、それでいて早いテンポで進められていたことは特筆すべき点だろう。

またこのキャンプでは、音楽の技術面でレベルの異なる子どもたちが交流する。音楽経験の浅い子をより経験の長い子どもと一緒に演奏させることで、やる気や目標、野心を養ってほしいと考えられているからである。

クライマックスとなるコンサートは、通常スポーツやロック音楽のイベントなどで使われるエリアで行われた。そこはあのエルトン・ジョンの“フェアウェル”ツアー(”お別れ”ツアー)開催予定の地でもある。2000人の子どもがアリーナ一面に集まり、観客席はその家族やコミュニティーメンバーで満杯になった。

キャンプの運営に関して

さて、あなたはこれまで数日間におけるオーケストラのイベントを運営した経験をお持ちだろうか。もしそうであれば、今回のイベントの運営がいかに複雑なものか、お分かりいただけるだろう。少しだけ想像してみていただきたい。7つのオーケストラに加え、6つのコーラス、そしてそれぞれに非常にタイトなスケジュールで行われるリハーサル…。もちろん、参加者の食事や、レクのような面も考えなければいけない。

信じがたいことだが、このキャンプは英雄とも呼ぶべきスタッフらのおかげで非常にスムーズに進行した。スタッフは、60の部門から構成され(もし、エーテボリ交響楽団の音楽家たちが上級、プレ上級オーケストラのセッションに協力したことも数に含めるのなら、更に15の部門が入る)、加えて147名のボランティアが手伝った。このうち78人のボランティアは、「サイドバイサイド」のメインスポンサーであるSEB(スウェーデン大手銀行)から参加した。外部団体や会社に頼らず、共催団体の中だけで、このイベントを運営したということはただただ驚くべきことである。例えば、スタッフたちは曲と曲の間の4分間で、400人のオーケストラを退場させ、300人のオーケストラを定位置につかせるという偉業を成し遂げた。

また、演奏の面に関しても「サイドバイサイド」のレベルは非常に高く、それはトップレベルの生徒たちとエーテボリ交響楽団との共演によく表れている。彼らはドヴォルザーク、ステーンハンマル、カバレフスキーらを含むフル・コンサートをやり遂げた。エーテボリ交響楽団の指導は非常に明快で、団員が奏でる質の高い音色は必ずや生徒たちを感化させただろう。

現地で印象に残った2つのエピソード

リハーサルの中で特に私の印象に残ったのは、アフリカ出身でエル・システマに参加している子が、エーテボリ交響楽団の団員に寄りかかり、彼ら二人が長年の付き合いがある仲間のように、リラックスした様子で笑いあっていた場面だった。

もう一つ印象的な場面があるが、それは「サイドバイサイド」の活動目標と関わるものだ。

中級と初級の子どもたちが合同でフルートの練習をしたときのことだった。中級レベルの6人の子どもたちが他のリハーサルから遅れて帰ってきて、かたまっておしゃべりをしてくすくす笑っていた。先生はそのかたまって話す子どもたちに、彼らよりも演奏経験の浅い子の隣に座るよう指示した。この演奏経験の浅い子たちというのは、ほとんどがエル・システマに通う子であった。先生の指示を受け、先ほどおしゃべりをしていたグループのうち年上の女の子たちは、仲良しグループがばらばらになってしまうことにがっかりした様子をみせながら、しぶしぶ指示に従った。すると何が起こっただろう。休憩に入ると、この女の子たちは所属のオーケストラグループに戻らなければならないぎりぎりの時間まで、つい先ほど知り合ったばかりの初心者の子どもたちとおしゃべりを続けた。そして休憩が終わると、初心者の友だちのところに直行し、談笑し、初心者の子の手助けをしていた。「サイドバイサイド」は、音楽の面と同様に、社会的にも変化を起こしている。

エル・システマスウェーデンの取り組み事例

は、エル・システマスウェーデンの中でもっとも野心的なプロジェクトである。というのも、これは親なしにスウェーデンにやってきた若い難民たちで構成されているオーケストラなのだ。

彼らは楽器を習い始めるのには遅く、また多くはトラウマや移民に伴う法律関連の問題によってストレスを抱えている。そんな彼らにとってオーケストラは彼らの家族になっていく。今回のキャンプでも彼らは「サイドバイサイド」のハーモニーの中にいた。

今回のキャンプでは、その大きな規模と無茶にも思える野望という点から、確かにベネズエラの感性が垣間見える。エル・システマスウェーデンの音楽監督がRon Davis Alvarezであることに何の驚きもないだろう。Ronはベネズエラのエル・システマ出身で、弱冠18歳でnúcleoの音楽監督に就任し、その後グリーンランドでエル・システマを創設したのち、世界中を旅する傍らエーテボリに定住したという経歴をもつ。彼は今回のキャンプで3つの最大規模のオーケストラを指揮した。彼の茶目っ気や精力的に活動する様子が終始オーケストラ全体の雰囲気を作っていたと思う。彼はまた「ドリームオーケストラ」設立のメンバーでもある。

サマーキャンプを終えて  ― 地域既存の音楽団体と協力することの重要性

私はこのキャンプをエル・システマ全体のモデルと捉えている。ここで言いたいのは、皆が皆、小さな町の人口ほどの規模のキャンプを目指す必要はないということだ。しかし私たちの誰もが、エル・システマに通う子どもや指導者がほかの音楽教育プログラムや財団とともに、エル・システマに参加していることを祝った本イベントを気に留める必要があるだろう。イベントを通じてエル・システマだけでなくほかの音楽教育団体も含めたすべての人たちのレベルを向上させることができるからだ。

スウェーデンでは成し遂げられた。ヨーロッパ最大のエル・システマネットワークを持つエル・システマスウェーデンはスウェーデン全土において、それより大きな公立の芸術系の学校のネットワークとの距離を縮めている。ほかの多くの国のように、スウェーデンでも歴史的にみて両者の間には少なからず緊張が走っていた。しかし多くの人はいま、もし両者が例えば額のかさむ資金調達や将来の展望において協力するのなら、どちらにとっても有益であることを認識している。

今回私が空港から利用したタクシーの運転手も、空港へ向かう際のタクシーの運転手もこのキャンプについて知っていて、彼らは「自分たちの住む町で何か特別なことが起こっている」と口にした。彼らは、何がエル・システマで何がエル・システマではないかを知らなかったけれど、子どもたちがみな様々な背景を持っていて、その中には“最近スウェーデンにやってきた人”(=難民や移民のことをさしている。移民や難民は、スウェーデンにおいても政治的に緊迫し、重要な意味合いをもつ課題である。)も含まれていて、彼らも一緒になって何か大きなことをしていると知っていた。彼らは今回のキャンプは、エーテボリ市が将来そうなってほしい姿の模範であると誇らしげに話してくれた。

「サイドバイサイド」は成長し続けていくだろう。2019年にはこのサマーキャンプに2500人の生徒が参加すること、また国境を越えほかの国のプログラムにとって指針となることが期待されている。

私たちは「ワールドアンサンブル」やワールドアンサンブルのニュースレターでよく、エル・システマが活動地域のほかの音楽プログラムと協力することの重要性について記事を執筆している。スウェーデンの例は世界に先駆けてこのアイディアを具現化しているだろう。

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