“子どもたちによる子どもたちのための音楽祭”という精神に基づく、『エル・システマ子ども音楽祭 in 相馬』。2013年12月の合同演奏会から始まり、それ以降、「エル・システマ子ども音楽祭」と称して、第1回(2015年3月)、第2回(2016年2月)と回を重ね、第3回目を2016年12月24日と25日の2日間にわたって福島県の相馬市民会館にて開催いたしました。夏の水田が青々とした時期から練習に励み、『子ども音楽祭』を心待ちにしてきた子どもたちは、2016年を象徴する曲やクリスマスにちなんだ曲の数々を披露し、年末の締めくくりにふさわしい心温まる集いとなりました。

『第3回 エル・システマ 子ども音楽祭 in 相馬』

FESJ/2016/(1~4枚目: Mariko Tagashira, 5~8枚目: Hiroki Ito, 9~11枚目: Mihoko Nakagawa, 12~14枚目: Sara Watanabe, 15~17枚目: Tohshihiko Ochiai)

1日目 第2部

1日目 第1部

1日目:相馬市内の中高生による吹奏楽と「相馬子どもオーケストラ」

  いよいよ本番を迎えた『エル・システマ子ども音楽祭 in 相馬』のトップバッターは、相馬市立中村第一中学校、中村第二中学校、向陽中学校吹奏楽部による合同演奏。「前前前世」、「Time to Say Goodbye」、「ディープ・パープル・メドレー」というカラーの異なる演目を3校から集まった中学生たちが、ひとつの舞台で力を合わせて元気いっぱいに表現しました。そして続く高校生による演奏も、相馬高校と相馬東高校吹奏楽部の2校のよる合同演奏。赤いブレザー姿の相馬東高校は、バンド全体がひとつにまとまるように基礎練習に励んできたそうです。一方の相馬高校は、攻めの演奏を目指し、また運営面でも子どもが主体となって音楽活動を引っぱっていけるよう頑張っています。「マーキュリー」、「簗塵秘抄~熊野古道の幻想」、「魔法にかけられて」と、まさにマジカルな世界を見せてくれたかと思うと、「ジングル・ベル・in swing」で、リズミカルで小気味のいいクリスマスを相馬市民会館に届けてくれました。

 

  第2部は「相馬子どもオーケストラ」による演奏。エル・システマジャパンの弦楽器教室に通う子どもたちに、普段から活動をサポートしてくださっている先生たちやプロの音楽家、フェロー(エル・システマジャパンの音楽指導ボランティア)が加わり総勢100名あまりが一斉にステージに上がりました。モーツァルト作曲の「ディヴェルティメントK.136番 ニ長調」は心が洗われるような透明感に満ちた演奏。「くるみ割り人形組曲 作品71a」は、クリスマスイブの夜に少女クララがくるみ割り人形をプレゼントされたことから始まる冒険物語で、ハツカネズミの大群と戦ったり、金平糖の精による歓迎の宴があったりと、非常に多彩なストーリー展開です。「相馬子どもオーケストラ」の子どもたちは、ときに勇ましく、ときに優雅で、そしてときに夢のようにきらきらとしたクリスマスイブを紡ぎだし、聴衆を「くるみ割り人形」の世界にいざないました。

  プログラムの最後を飾ったのは、「交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』」。第2楽章は「遠き山に日は落ちて」でよく知られる哀愁に満ちた曲ですが、最年少の小学校3年生も演奏した『新世界』はダイナミックで、特に後半にかけては集中力の高さが伝わってきて圧巻でした。演奏後は相馬市民会館に「ブラボー」の声が飛び交い、地元の方たちもスタンディングオベーションで感動を伝え、会場が一体となった『新世界』でした。

  聴衆の拍手はアンコールを求める手拍子へと変わり、その手拍子に合わせるように聞こえてきたのが、シャンシャンという鈴の音。「相馬子どもオーケストラ」の子どもたちは、サンタクロースの帽子やトナカイの角をつけ、元気いっぱいの「そりすべり」を聴かせてくれました。そしてさらにもう1曲のアンコールで子どもたちが生き生きと演奏したのが、「ラデツキー行進曲」。タクトを振る浅岡洋平先生(エル・システマジャパン音楽監督)の合図に合わせて、聴衆も手拍子を大きくしたり小さくしたりして演奏に参加し、会場は大いに盛りあがりました。

1日目 第3部           ​相馬市公式Youtubeより

FESJ /2016/ Hiroki Ito

2日目:「相馬子どもオーケストラ&コーラス」、地域みんなのフィナーレ

  2日目も700名を超えるお客さまが会場を埋め、相馬市民会館はほぼ満席。そのなかで、最初にステージに登場したのは「相馬子どもオーケストラ」の子どもたちでした。颯くん(小6・普段はバイオリン)の指揮で、子どもたちはコレッリ作曲の「合奏協奏曲集作品6 第4番ニ長調」を堂々と披露しました。

  続いて、ホルスト作曲の「セントポール組曲 作品29-2」は、浅岡先生に指揮をバトンタッチし、勢いよく攻めていくような旋律からドラマチックに聴かせるところまで、しっかりと世界観をつくりあげられていきました。大きく成長した「相馬子どもオーケストラ」に沸いた会場に応えて、子どもたちがアンコールで演奏したのは、アンダーソン作曲の「プリンク、プランク、プルンク」。弦楽器を弓でひく代わりに、弦を指で弾いて音をだすピチカートという演奏技法が、最初から最後まで用いられます。途中、コントラバスの子どもたちが楽器をくるりと回転させるパフォーマンスもあり、かわいらしく遊び心のある「プリンク、プランク、プルンク」に、思わず笑みがこぼれた来場者もたくさんいらしたようです。

 

  そして、いよいよ「相馬子どもコーラス」が登場。最初に相馬市立桜丘小学校の小学生たちが、「小鳥の歌」、「泉のほとり」、「ぼくらのエコー」、「川」の4曲を披露。後者2曲は今夏にエントリーした「NHK全国学校音楽コンクール」の課題曲でもあり、子どもたちはたくさん練習を重ねてきました。「ぼくらのエコー」には、「声よ 山になれ 声よ 海になれ 声よ 声よ そこをこえよ!」という歌詞がありますが、透明感あふれる子どもたちの歌声はまさにどこまでも時空を超えていくようでした。

  クリスマスソングの数々を歌いあげる『新しい星光った』のプログラムには、中学生と高校生も参加。「もみの木」、「ジングルベル」、「諸人こぞりて」などのクリスマスソングや讃美歌が、ラッキィ池田さんと彩木エリさんのかわいらしい振付とともに披露されました。色とりどりのパンツをはいた子どもたち全員でクリスマスツリーのフォーメーションを組んだり、そりに乗るジェスチャーをしたりと、会場は楽しいクリスマスのムードに包まれました。

 

  『クリスマス・グリーティング』では、照明の落ちた客席後方から、「相馬子どもコーラス」の子どもたちが白いケープ姿にそれぞれロウソクのような淡い灯りを手に登場。会場は瞬く間に聖なる夜の雰囲気に包まれました。古橋冨士雄先生(エル・システマジャパン音楽監督)の編曲による「さやかに 星はきらめき」、「ホワイトクリスマス」などが披露されたほか、駐日ベネズエラ・ボリバル共和国大使夫人でソプラノ歌手であるコロン・えりかさんが特別出演し、子どもたちと一緒に「アヴェ・マリア」や「クリスマスの季節」で美しい歌声を響かせてくださいました。また、「きよしこの夜〜」で有名な「聖夜」は客席も一体となって歌い、最後はさだまさしさん作詞作曲の「ふるさとの風」で心に滲みる締めくくりとなりました。

 

  プログラムの最後は、「相馬子どもオーケストラ&コーラス」による、モーツァルト作曲の「アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618 ニ長調」。澄みきった歌声と演奏に会場は静謐な雰囲気に包まれました。そして、「相馬高校吹奏楽部」、「相馬合唱団エスポワール」と、今年はじめての参加になる「相馬子どもオーケストラ&コーラス保護者有志コーラス」が加わった総勢200名によるシベリウス作曲の「フィンランディア」。全員が舞台に乗りきらないため、客席前方にコーラス用のステージを設え、指揮も浅岡先生と古橋先生がシンクロする2人体制でした。ときに勇ましく、ときに神々しいほどの荘厳なハーモニーが相馬市民会館全体に響きわたる圧巻のフィナーレに聴衆からの万雷の拍手は鳴りやまず、さらにアンコールをもう1曲。ヘンデル作曲の「ハレルヤ・コーラス」は、子どもたちを中心に、コーラスの保護者の方たち、普段から子どもたちと一緒に音楽に取り組んでいる先生やフェロー、地元の先輩合唱団が同じ舞台に立つ壮大なスケールで、きっと会場にいらした多くの方が音楽のすばらしさを実感し、心震える時間となったのではないでしょうか。

指揮をする颯くん(FESJ /2016/ Mariko Tagashira)

FESJ /2016/ Mihoko Nakagawa

「楽都」で成長する子どもたち

  両日とも参加された立谷秀清市長は、冒頭のご挨拶で「音楽を通してみんなが元気になり、復興を成し遂げようという気持ちで、この活動をはじめました。相馬全体の音楽活動となって栄えてきたことをうれしく思います」とお話されました。エル・システマの理念は地球の裏側にあるベネズエラで生まれたものですが、「相馬子どもオーケストラ&コーラス」をはじめとする音楽活動は、相馬教育委員会を中心とする地域の大人たちの熱い想いと行動があったからこそ、ここまで活発になりました。舞台で歌ったり演奏したりしているときの子どもたちの真剣で生き生きとした表情は、彼らが着実に力をつけ、前進していることを感じさせてくれました。

 

  相馬出身のエル・システマジャパン音楽監督(吹奏楽)であり、『第3回エル・システマ子ども音楽祭 in 相馬』の実行委員長を務めた岡崎明義先生は、「この子どもたちは、将来きっと私たちの相馬の文化を担ってくれるでしょう」とコメント。また、『子ども音楽祭』に参加した地域の大人たちからも「子どもたちからエネルギーをもらったような気がする」、「とにかく胸が熱くなりました。子どもたちの表情がすばらしく、回を重ねるごとに余裕が出てきたのが感じられます。相馬を音楽の都にしたい。私たちは音楽の力でひとつになれます」といった感想が寄せられました。

 

  その一方で、自分たちの地域の外にも目を向け、つながろうとする子どもたちの姿が印象に残った方たちもいらしたのではないでしょうか。「相馬子どもコーラス」の亜弥さん(中2・メゾソプラノ)は、アンコールに選んだ「ふるさとの風」の歌唱に先立ち、東日本大震災から5年が経ち、自分たちの心が復興しはじめていること、歌が心を変えてくれたこと、「ふるさとの風」を今年4月に被災して今も大変な状況にある熊本県益城町の皆さんに贈りたいというメッセージを届けてくれました。

 

  『第3回エル・システマ子ども音楽祭 in 相馬』の開催は、実にたくさんの方々の支援により実現しました。その多くがボランティアで協力してくださいました。エル・システマジャパンのスタッフ一同、心より御礼申しあげます。これからも精力的に活動を続けてまいりますので、皆さま、どうぞよろしくお願いいたします。 

(文:仲川美穂子 エル・システマジャパン広報官)

楽屋で楽しく過ごす子どもたち(FESJ /2016/ Sara Watanabe)

FESJ /2016/ Hiroki Ito

■出演

相馬子どもオーケストラ(指揮: 浅岡洋平)

相馬子どもコーラス(指揮: 古橋富士雄、小島弥生、ピアノ伴奏: 金子渚、半澤淳子、振付:ラッキィ池田/彩木エリ)

相馬市立中村第一中学校吹奏楽部/相馬市立中村第二中学校吹奏楽部

相馬市立向陽中学校吹奏楽部/相馬高校吹奏楽部/相馬東高校吹奏楽部

相馬合唱団エスポワール(賛助出演)

特別ゲスト: コロンえりか(ソプラノ)

 

主催: 一般社団法人エル・システマジャパン

共催: 相馬市、相馬市教育委員会

後援: 福島民報社、福島民友社、河北新報社

協力: 福島県吹奏楽連盟相双支部、オアシス楽器店

助成: 平成28年度文化庁 文化芸術による地域活性化・国際発信推進事業

お問い合わせ:一般社団法人エル・システマジャパン
tel : 03-6280-6624 e-mail : info@elsistemajapan.org