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エル・システマジャパンの外部評価報告会を開催


「音楽を通して生きる力を育んだ3年間〜福島県相馬市における週末弦楽器教室の報告〜」が青山学院大学キャンパスにて6月12日に開催されました。このシンポジウムでは、外部調査機関としてエル・システマジャパンの活動成果を3年間にわたり調査・分析した結果を青山学院大学の苅宿教授が発表したほか、エル・システマジャパン代表理事の菊川穰、同音楽監督の浅岡洋平を交えての活発なトークが繰り広げられました。

苅宿教授は、エル・システマジャパンの相馬市における「週末弦楽器教室」について2013年度から3年間にわたって調査。週末弦楽器教室に参加している子どもたちやその保護者の意識と行動を追跡し、全国調査と比較を行いました。その結果、週末弦楽器教室に通っている子どもたちは、友人や保護者とコミュニケーションをとる機会が多いことや自分が住んでいる地域に満足している割合が全国平均に比べて高いことがわかりました。これは、今なお原発問題を抱える福島での活動として注目に値する結果です。また、子どもが音楽や芸術に触れる機会が増え、成長することを週末弦楽器教室に期待しているなど、保護者の意識が高いことが判明しました。そのほか、エル・システマジャパンの活動の特徴のひとつである、「教え合いのシステム(ピア・ラーニング)」が仲間と協調性を育むうえで有効であることがわかり、今後のさらなる展開が期待されました。

苅宿教授、菊川代表、浅岡先生による鼎談では、菊川が「エル・システマはそこにあるけれど、形はない」という、エル・システマ創始者であるアブレウ博士の言葉を紹介。世界60以上の国や地域で実施されているエル・システマのプログラムは、それぞれの背景やニーズに合った多様な形で展開していることに触れ、相馬や大槌でも、「子どもたちが何を必要としているか」に焦点を絞りながら、エル・システマジャパンのプログラムが形成されていることが共有されました。「活動をはじめて想定外だったことは?」との苅宿教授の問いに、菊川も浅岡も「いや、もう想定外のことだらけで・・・」という回答から始まりましたが、これも子どもたちのニーズをくみ取り、「想定外」にもひとつひとつ真摯に向き合い対応していくエル・システマだからこその反応です。「あえてゴールを設定せず、その代わりに、今そこにある課題に応えていくエル・システマの取り組みは、ひとつの教育の方向性を示しているのではないか」と苅宿教授は分析。そして、先が見えないこれからの多元社会において、音楽を通じて可変性に富んだコミュニティを作っていく意義について言及しました。

また、浅岡は、学ぶ環境を整えながら、子どもたちと一緒に答えを見つけていくプロセスの重要性を強調。いかに子どもたちの自己高揚感を高め、「学びたい」というモチベーションを生み出していくか。そんなチャレンジに対して、集団で即興的にひとつの価値を作り上げるオーケストラへの参加は、子どもにとってかけがえのない体験であると説明しました。どんな子どもにも門戸が開かれたオープンスクールという環境で、上手な子はほかの子どもに教える(=ピア・ラーニング)ことにより学びを定着させ、他方の教えてもらう側は自分よりうまい先輩やフェローといった身近な存在に目標を見出し、集団全体のキャパシティが底上げされていくという現象が起きつつあると報告。なかでもフェローは、人手不足を補うためのボランティアとしての役割しか当初は想定されていなかったものの、実際に活動を始めてみると、学びと教えを媒介する画期的な存在であることがわかってきたとコメントしました。

そのフェローのリーダーを務める飯田佑理子は、4年前からエル・システマジャパンの活動を現場中心に支えてきました。年1回の「子ども音楽祭」などのイベントに保護者が以前より自発的に関わるようになったのを目の当たりにし、エル・システマの活動が保護者間のコミュニケーションを促し、さらにコミュニティが醸成されてきたことを実感すると述べました。

このシンポジウムには70名近くの方々にご来場いただき、質疑応答のセッションでは、「エル・システマの取り組みは、ほかの芸術・教育活動にも応用できるか」などの広い視点からの質問もいただきました(答えは、「はい」です)。週末にもかかわらず、シンポジウムにご参加くださった皆様、そして有意義な企画を共催してくださった青山学院大学社会情報学部苅宿俊文研究室の関係者の皆様に、エル・システマジャパンのスタッフ一同、心より御礼申し上げます。

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